HIDEKI'S 連載 COLUMN SI住宅 NEW

(書き下ろし連載にあたって)
 連載コラムでは、スケルトン・インフィル(SI)方式の普及に携わった私自身の裏面史を交えつつ、世間で誤解も多い「SI住宅」の真実をお伝えしたいと思う。とはいえ暇を見つけて書く予定だ。掲載は不定期であることをお許し頂ければ幸いである。


連載2 SI方式の裏面史1−スケルトン・インフィルという言葉


スケルトンという名の由来

 1990年代の後半、筆者らがスケルトン住宅と呼んでいた頃、ある人から、「中が透けて見える住宅なんて、住む人が限られるでしょう」と言われて、キョトンとしてしまった。その頃、スケルトン・グッズが流行っており、スケルトンとは「透けるトン」で、中が見える住宅だと誤解されたようだ。
 スケルトンは、骨組みという意味の英語である。スケルトン・グッズも、本来は骨組みをみせたデザインという意味であり、「透ける」という意味は無かった。しかし、いつの間にか、中が透けて見えるという意味に変化したようだ。
 スケルトンは、「建物を支える骨組み」を意味する。要するに人間の骸骨にあたる部分だ。不動産業界では、裸貸しのことを「スケルトン貸し」と呼ぶことがあるが、これは内装がない構造体の状態をさしており、内装は借り手が造る方式のことである。これは店舗などでよく見られる。
 では、アメリカでも「スケルトン貸し」のような言葉があるのだろうか。英語では、内装がないリース方式と言う。つまり、建物の構造体をスケルトンと呼ぶ使用法はみられない。建物スケルトンは、ストラクチャ、ベース・ビルディング、シェル、サポート等と呼ばれる。
 えっ、スケルトンは英語で建物の骨組みでしょ。何で、英語では使わないの?。頭が混乱してしまうと思う。説明が必要だ。

壁構造と軸組構造の違い

 スケルトンの語感を知るには、建物のつくり方に、壁で建物を支える壁構造と、柱と梁(はり)で支える軸組構造という、大きく二つの方式があることを理解するのがてっとり早い。
 軸組構造の典型は、日本の木造住宅だ。柱や梁は、まさに人間の骸骨(スケルトン)にあたるもので、英語でも、柱梁がむき出しの建物をスケルトンと呼ぶようだ。
 ところが、欧米では、一戸建住宅の一部でしか「軸組構造」はみられない。多くは、壁で建物を支える「壁構造」やレンガや石を積む「組積造」になっている。特に、中層の集合住宅は、壁にレンガや石を用いたものが多く、壁が建物の骨格だ。しかも、近代になりコンクリート造が登場して構造体に柱と梁が使われても、住宅デザインは保守的なものが好まれた。レンガ等で壁をつくり柱や梁をむき出しにすることは稀であったという。このため、これをスケルトンと呼ぶ習慣はなかった。
 むしろ、内装がない建物をみれば、ベース(基盤)、シェル(殻)という語感が適していることが頷ける。
 これに対して、日本は地震国であったため、レンガや石造りの建物が定着しなかった。つまり、柱や梁が建物の骨格だ。このため、建物の骨格をスケルトンと呼ぶことが知らず知らずのうちに定着し、今日では、壁構造の建物であってもスケルトンと呼ぶようになっている。実は、その経緯には、人工土地の構想が絡んでいるのだが、それは次回に譲ろう。
 従って、スケルトンは英語であって、英語ではない。つまり、言葉そのものは英語だが、建物の基盤となる骨格を指すという使用法が、日本的なのである。

インフィルという言葉はオープンビルディングから

 一方、インフィルという言葉は、直訳すれば「中に充填する」という意味だ。穴をふさぐという意味でも使われる。都市開発では、都市内の小さな隙間・空地などを充填する開発という意味で使っており、これをマンションに適用すれば、スケルトンという箱の中に充填する内装設備という意味になる。
 しかし、インフィルは、このような一般用語としての意味に加えて、「オープンビルディング」という国際的建築運動で使われる専門用語である。その説明は少々長くなるので、ここでは簡単に説明しておこう。
 オープンビルディングとは、オランダの建築家ハブラーケン先生(後の米国MIT教授)が提唱した理論を契機とした建築思想である。ハブラーケン先生は、集合住宅が大量に画一的に造られていることに疑問をもち、各住戸は、居住者主体でその意思決定に委ねて造られることが望ましいとした。そのためには、みんなで決める社会性のある建物の共用部分「サポート」と、個人に委ねられる「インフィル」を明確に分離することが大切だとした。さらに、その後、街の骨格をなす「アーバンティシュ」の概念を加えて、ティッシュ・サポート・インフィルの3段階を明確に分けたレベル理論として知られるようになった。
 従って、インフィルは次のように定義される。「インフィルとは、各個人の意思により決定される建物のまとまった構成部分を指す」。抽象的な定義だが、要するに、マンションにおいて各個人が自由設計したり、自由にリフォームしたりできることを最大限大切にし、それができる部分のこと、つまり概ね住戸内を指している。

ではスケルトン・インフィルはどこからきたのか

 スケルトン・インフィルとは、このように和製英語のスケルトンと、専門用語であるインフィルが合わさってできた言葉だ。この言葉を最初に提唱したのは、京都大学の巽和夫研究室である。
 しかし、オープンビルディング本来の呼び方にならえば、サポート・インフィルだ。このため、学者の一部からは、スケルトン・インフィルなんて呼び方はけしからん、本来のサポート・インフィルに修正しないと諸外国からバカにされるという主張がみられた。実際、私も直接、このように言われたことがある。
 しかし、今日の日本では、スケルトン・インフィルという呼び方が定着した。何故だろうか。そこには、SI住宅の真実の一つが隠されている。歴史を遡るが、少々、謎解きにおつきあい頂こう。(続く)