HIDEKI'S 連載 COLUMN SI住宅 NEW

(書き下ろし連載にあたって)
 連載コラムでは、スケルトン・インフィル(SI)方式の普及に携わった私自身の裏面史を交えつつ、世間で誤解も多い「SI住宅」の真実をお伝えしたいと思う。とはいえ暇を見つけて書く予定だ。掲載は不定期であることをお許し頂ければ幸いである。


連載1 マンション広告に登場するSI方式


マンションの広告をみて

 私の手元にSIマンションと銘打った広告がある。そこには、次のキャッチフレーズが書かれている。
 「お客様の要望にあわせてフリープランできるスケルトン・インフィル方式を採用!」
 スケルトン・インフィル方式には(注)があり、囲みをみると次の文章が眼に入る。「建物の構造体(スケルトン)と内装設備(インフィル)を明確に分離して、内装設備の自由設計をしやすくした方式です。また、将来のリフォームもしやすくなりますので、建物が長持ちします。」
 買い手の夢を育む心地よい言葉だ。もちろん、このようなSI住宅は、これからの建築を先導すると専門家も期待しており、しっかり造れば言葉通りの夢が実現する。しかし、すぐに次の疑問が生じるだろう。
 自由設計すれば費用は上がるのでは? スケルトンとインフィルの分離とは一体何か? 建物が長持ちするといっても地震には大丈夫なのか? 等々。

 実際、SIマンションといっても玉石混淆である。名ばかりの例もあるから注意が必要だ。専門家としては、よいSI住宅とは何かを明らかにして、その実現に取り組むことになる。
 しかし、住宅業界の弱点は景気に左右されやすいことだ。売れ行き好調な時は、フリープランのような面倒なことは避けようとする。決まった間取りで売った方が手間がかからないし、建設会社も煩雑な個別工事を安く受注するようなことはしないからだ。逆に不景気になると、他社と差別化するためにフリープランが注目される。
 私は、自由設計の程度はいろいろでよいと考えている。フリープランでなくても、メニューやオプションを充実すれば、それなりに購入者の要求に対応できるからだ。むしろ大切なことは、景気にかかわらず、SI住宅の基本を実現することだ。その基本とはなんだろうか。それは、「SとTを明確に分離する」ことであると思う。これにより内装設備を変更しやすくし、スケルトンを長持ちさせるのである。
 私が描く理想とは、ユーザーにとっても、住宅業界にとっても、SI住宅とあえて言わなくても、それが当たり前のように実現していることである。

マンションリフォームで大切なSI分離

 ところで、SI住宅への期待は新築マンションに限らない。既存のマンションのリフォームにおいても、SIを分離する考えが必要になっている。以下は、あるリフォームに携わる設計者から聞いたグチである。
 「お客さんは、バスユニットのカタログにはやたら詳しいんですが、構造壁の知識が乏しくて弱ります。この風呂場は構造壁に囲まれているから、そのバスユニットは入らないと言っても、『壁といっても家の中のものでしょう、動かせばいいんじゃないの』といわれる。建物全体を支えている壁なので、壊せないということを説明してやっと納得してもらうんです。そして、『そのお風呂が入らないんではリフォームは考え直すので、また相談しますわ』となって、半日タダ働きですよ。」
 確かに、住宅室内の壁については、壊せる「間仕切り壁」と、壊せない「構造壁」がある。しかし、表面にクロスなどが張ってあると、外から見ただけでは区別がつかない。このため、一概に、お客さんが悪いというわけではない。

 実は、この話は、「SI分離が不明確である」ことによる問題だ。構造壁は「スケルトン」で、間仕切り壁は「インフィル」になる。この区別が不明確だから、このような食い違いが起きることになる。
 SI住宅の理想は、室内に「構造壁」をなくすことである。または、構造壁がある場合は、リフォームの邪魔にならないように配置を工夫することである。もちろん、既存マンションでは構造壁は動かせない。その場合は、どれが構造壁で、どれが動かせる壁かを明示する、つまり、スケルトンとインフィルの区分を住み手が理解するようにすることが大切である。
 これから広がるマンション・リフォームでは、SI分離の明確さが、ポイントの一つになる。

そもそもSI住宅とは何か?

 SI住宅は、国土交通省も長持ちするマンションとして推進している。その定義をみてみよう。「スケルトン・インフィル方式とは、建物をスケルトン部分(構造躯体等)とインフィル部分(間取り内装等)に明確に分離し、前者は長期にわたり利用できる耐用性を重視し、後者は居住者の多様性や将来の変化に応じやすい可変性を重視して計画した集合住宅のこと」。
 実は、この定義は、私が国の研究所に在籍していた時に手がけたものだから、筆者の考えということになる。ところが、フリープランや自由設計とは、どこにも書いていない。むしろ、長持ちする建築の仕組みであることを謳っている。
 実は、SI方式の定義は多様である。その中の共通項とは何だろうか。それは、「スケルトン(S)とインフィル(I)の二つに明確に分離する」ことである。その分離がもたらす様々なメリットを生かそうとすることの総称がSI方式なのである。もちろん、インフィルは事務所や店舗になることもあるため、住宅ではなく建物と理解したい。
 すなわち、建物が長持ちすることであれ、フリープランの実現であれ、さらには、建物を社会的部分と私的部分に分ける構想であれ、すべて、SとIの明確な分離がもたらすメリットである。どのメリットに注目するかは、ケース・バイ・ケースであるという事実を、まずは確認したいと思う。

SとIの明確な分離がすべて

 従って、重要なことは「SとIの分離のされ方」である。ST分離にとって大切なことは、構造壁の配置、ゆとりある階高(1階あたりの高さ。天井高ではない)、給排水管の専有と共用の明確な区分、長持ちするスケルトン、等である。その詳細は、いずれ取り上げることにしよう。
 マンション暮らしで重要なことは、これから購入しようとするマンション、あるいは自分が暮らしているマンションで、SとIの分離が具体的にどうなされているかを知ることである。
 仮にフリープランを標榜していても、SとIの分離が不十分であれば、それは悪いマンションといってよい。逆に、フリープランを謳わなくても、両者の分離がしっかりなされていれば、将来、住み手がリフォームしようとする時に、リフォームの自由度の高さを知って、その効果を実感できるはずである。

 マンションにとって重要なことは、SとIの分離について、建築技術の点でも消費者への情報提供の点でも、きちんとなされていることなのである。(続く)