小林秀樹のコラム-マンション標準管理規約
HIDEKI'S COLUMN 2016 NEW

2016.06.23
書き下ろし

新しい標準管理規約を採用できるマンションは少ない

(掲載にあたって)
 2016年3月に国は新しいマンション標準管理規約を発表しました。この検討過程の問題点については、私が日本マンション学会の会長を務めていた頃に各方面から指摘があり、意見書も公表しました(学会ホームページ参照)。しかし残念ながら、その指摘が十分に反映された内容にはなりませんでした。そこで、改めて、一人の学者としての意見を公表することにしました。

マンション標準管理規約が改正される!

 今年3月に国土交通省は、新しいマンション標準管理規約を発表した。周知のように、途中2年間中断して迷走した「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」の報告が1年前にあり、概ねそれに基づいて作成されたものである。
 この検討会報告については、マンション管理の現場に関わる様々な団体から異論が噴出したが、それを強行突破して作成に至ったことは、元国交省の一員であった私からみても異常なことであり、大変残念なことである。

コミュニティ条項の削除はバランスに配慮

 さて、新聞その他では、「コミュニティ条項の削除」が話題となったが、これは、国の担当者が英知を働かせて、同時に改正された「マンションの管理の適正化に関する指針」によりバランスを保った。
 具体的には、同指針で次の文章を加筆した。「マンションにおけるコミュニティ形成は、日常的なトラブルの防止や防災減災、防犯などの観点から重要なものであり、管理組合においても、建物の区分所有等に関する法律に則り、良好なコミュニティの形成に積極的に取り組むことが望ましい。」

コミュニティ関連は従来のままで問題ない

 あまり知られていないことだが、この指針は、法律に基づいて国が定めるもので、標準管理規約の「上位規定」にあたる。標準管理規約は、あくまで参考として提示しているにすぎない。従って、コミュニティ条項を採用している従来の管理規約は、この上位規定に合致しており、そのまま使って何ら差し支えない。
 もちろん、管理費を自治会費と混同することについては、従来の標準管理規約のコメントでも指摘している通り、慎重に取り扱う必要がある。自治会の加入は任意が原則であるため、強制にあたらないように配慮したい。

より大きな問題はマンション管理への誤解

 実は、新しい標準管理規約の問題は、そこにあるのではない。最も大きな問題は、マンション管理への偏った理解に基づいて、理事の要件、役割、責任を強化している部分その他である。さらに、監事には理事会への出席義務、及び広範囲な業務を課している。
 私は、最初、これらの条項は、外部専門家に役員を依頼する時の条項だと思っていた。しかし、ふたを開けてみると、標準ですべてのマンションに共通する条項としている。それをみて驚いた。マンション管理の現場を知らないものの作文としか思えなかった。

一般社団法人の規定の準用であれば短絡

 一歩譲って、これら条項を定めた理由を推測してみよう。一つ考えられるのは、一般社団法人の規定に似たような条項があるため、それに準じようとする意図だ。管理組合は「権利能力なき社団」とされる。それから類推して、一般社団法人の規定を適用すべきだと考えたのかもしれない。
 もちろん私の誤解だと信じたいが、もしそれが事実ならば、なんという短絡だろう。管理組合は、社団としての性格と、組合としての性格の両方をあわせもつ。マンション管理の実態に即して、社団法人の各条項の適否を慎重に検討すべきことは言うまでもない。新規約のように役員の役割と責任を重くすれば、役員の選任に苦労するマンションが増えるだろう。
 私でさえ、このような重い責任がある役員を引き受けることに躊躇する。否、月10万円もらえば引き受けてもよい。つまり、プロが担うに適した条項なのである。

多くのマンションの実態を踏まえない「標準」

 さて、もう一つの理由を想像すれば、過去に理事会が訴えられた事例があるため、理事会のチェック機能を強化しようとする意図だ。もちろん、そのために一般社団法人のガバナンスの仕組みを採用する管理組合があってよい。しかし、それとは逆に、できる限り総会主導として、理事の責任を軽減する方向もある。
 前者は、マンションの財産価値をおもに重視して専門家に管理をゆだねようとするマンション、後者は、役員を持ち回りで担当し組合員の参加意識を高めつつ居住価値を重視するマンションに適している。おそらく、多くのファミリー向けマンションの要望は後者だろう。
 「標準」というからには、両方に配慮していることが必要だ。私が、短絡と言ったのは、マンションの多様な実態を踏まえることなく、前者のプロ仕様の理事会しか念頭にないようにみえるからだ。

担当者の苦悩を推しはかる

 とはいえ、国の担当者のご苦労には同情する。「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」は、行政では先輩が発足させた研究会だ。それに泥を塗るわけにはいかない。しかも検討会の座長は声が大きい。その一方で、管理諸団体からは文句を言われる。どうすべきか、ずいぶん苦悩したと想像する。
 コミュニティに関して標準管理規約と適正化指針の二つを使い分けるアイディアは、その苦悩から生まれたのではと思う。その英知を称えたい。
 しかし、その他の条項までは手が回らなかったようだ。あとの祭りだが、理事会の機能強化は、外部専門家に役員を依頼するときの選択肢、あるいは役員に十分な報酬を払うときの選択肢とすれば、問題は小さかった。

 ところで、この委員会は2年間も中断した。それは、行政の前任者がストップしていた、あるいは放置していたことを意味する。そして、行政は2~3年で担当者が交代する。そこで委員会は息を吹き返す。本来ならば、委員会を設立した前任者が、責任をもって委員会を終了させるべきであった。後任からすれば、なぜ難題を押しつけるのかという気持ちであったろう。以上は私の勝手な推測にすぎない。間違っていたらお許し願いたい。

実はよい改正項目もたくさんある

 苦言を綴ったが、実は、新たな管理規約には、有用な項目もたくさん入っている。リフォームに関する条項が充実し、災害時の対応も適切だ。さらに、専門家に理事長等を委託する第三者管理を選択肢として導入したことも的を射ている。
 しかし、上述した偏った理解による記述が随所にあることで、全体を台無しにしてしまった。これを解決するために、よい方法がある。それは、旧標準管理規約をベースとして、今回の改正のうち良い内容を抜き出して合体することだ。それこそが、真の「標準」となる普及版マンション管理規約となるはずである。

この考えに沿って、日本マンション学会が改良版を公表しました。<こちら

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