HIDEKI'S COLUMN 2007

2007.06.08

住宅総合研究財団「すまいろん」2007春号より

今、なぜ、シェア居住か

最近、複数の単身者が一つの家に住むルームシェア、ハウスシェアと呼ばれる住まい方が増えている。しかも、従来は、友人や兄弟姉妹によるシェアが一般的であったが、今日では、見ず知らずの他人が出会って暮らし始める形態が定着しつつある。その理由として、欧米ではルームシェアが一般的でその経験者が増えたこと、インターネットの発達によりルームメイト募集が容易になったこと、安い家賃を求める合理的な意識が浸透してきたこと、などが指摘されている。

しかし、各個室に鍵やシャワーが付いていることが少なくない欧米の住まいとは異なり、日本の住まいは、個室の独立性が不完全でシェア居住に適していないといわれてきた。そのような中で、どのように工夫しながら住んでいるのだろうか。また、現代都市における人間関係の希薄化に対して、シェア居住が仲間を求める場になっているという意見もある。とすれば、家賃負担のテーマから、日本の住空間の特質、あるいは人々のコミュニティ意識のあり方まで、シェア居住が提起する問題は奥が深い。

今日、単身者がなぜシェア居住を求めるのだろうか。その背景を探るとともに、今後の発展方向について考えてみたい。

シェア居住とは何か

 ところで「シェア居住」という言葉は、本特集のための造語で、家族ではない複数の居住者が台所などを共用して一つの家に住む形態をさす。

このような住まい方は、欧米では一般的だ。英語圏での呼び方は、国によって多少異なるが、住宅をシェア(share)するが共通語である。これに住宅の形態をつけて、一戸建の場合はハウスシェアと呼ぶことが多いようだ。マンションやアパートの場合は、イギリス系ではフラットシェア、米国系ではアパートメントシェアなどと呼ばれる。そして、一つの部屋に同居するのがルームシェアである。一方、ハウスシェアリングとingをつけて行為を強調したり、あるいはシェア対象の住宅を指して、シェアハウスやシェアードハウスと呼んだりする。

しかし、これらを総称するうまい言葉がない。米国系では、ルームシェアを総称として使うことがあるようだが、部屋のシェアと誤解されることがあり決め手に欠くという。

そこで、ここでは幅広く「シェア居住」と呼ぶことにしよう。日本の古い設備共用アパートもシェアの度合いが高く、これに含めてよいだろう。また、コレクティブハウスも食堂などを共用しており、広い意味でシェア居住に含めることにしたい。

統計でも確認できる近年の増加

 ところで、シェア居住が増加していることは、これをテーマにしたテレビドラマ、雑誌記事や関連単行本、あるいはインターネットの同居人募集サイトの人気ぶりから、おおよそ想像はできる。しかし、本当に増加しているのだろうか。これを確認するために国勢調査を集計してみた。

 もちろん、シェア居住ぴったりの統計はない。近似的に推定できる項目として、2つが該当する。一つは、「間借り」だ。この項目には、結婚した別性の子世帯が親の家に同居する場合を含むため、「間借り×単独世帯」に絞るとよさそうだ。もう一つが、「非親族世帯」である。友人どうしが家を借りる場合は、誰か一人が世帯主となって借家契約をする。このような場合、国勢調査では、非親族世帯にカウントされる。以上の?と?を合計すると、シェア居住の大まかな傾向がつかめる。ただし、同棲が含まれる点は注意が必要だ。

この他には、寮や寄宿舎など施設としてカウントされる数値があるが、これらは漸減傾向にある。これらは、今日、注目を集める「シェア居住」とは区別しておこう。

 さて、最新の国勢調査(平成17年)をみると(図1)、シェア居住は、20歳代から30歳代前半に集中していることが分かる。しかも、平成12年に比べて、この世代だけが大きく増えている。明らかに、最近のシェア居住への関心の高まりと一致している。もう一つ注目すべきは、高齢者になると再びシェア居住の比率が高まることだ。この多くは子世帯の家に間借りするものだが、一部に老後を仲間と暮らすというスタイルがみられ、今後の可能性を示唆している。

 

単身者の住まいの系譜

 さて、シェア居住の動向を考えるために、単身者の住まいの系譜を簡単にたどってみよう(日本住宅総合センター「日本における集合住宅の普及過程」参照)。

わが国において都市への人口流入が始まるのは明治中頃からである。当初は、一般家庭での間借り、長屋、あるいは旅館の長期滞在で居住の場を得ていたが、次第に専業の下宿屋が発達する。学生寮や寄宿舎が登場するのもこの頃である。下宿屋は食事付きが普通で、加えて建物入口で靴を脱ぐ。これらの点において、建物全体が一つの家といってよいものであった。

その後、産業化の発展とともに中流階級いわゆるホワイトカラーが台頭する。その要求に応える住まいとして明治末頃から登場したのが、各戸の独立性を高めた木造アパートである。それらの中には、各戸の玄関まで靴で入るタイプも登場した。そして、昭和時代に入ると木造アパートの普及はめざましく、昭和9年の新聞記事によると、プライバシーが守られるとして木造アパート人気が高く、下宿屋に空家が生じるほどであったという。自炊者が32%、多くは近くの簡易食堂を利用していた。

その後、第二次大戦による借家供給の停滞を経て、再び大きな変化を遂げるのが高度成長期である。各種の住宅設備が順次室内に入り、専用化されていく。最初に台所が室内に入り、次いで便所が専用化された。最後に残ったのが風呂である。それも昭和50年代頃には、銭湯の衰退と風呂の専用化が表裏一体となって進み、今日の単身者向けのアパートにたどり着く。ワンルームマンションが普及するのも、昭和50年代頃からである。

以上の近代史は、一言でいえば「シェア居住」を嫌い、各戸に台所・便所・風呂等を完備した「自立居住」への変化の歴史であるといってよい。しかも、建物入口で靴を脱ぐ形式から、各戸まで靴で入る形式へと転換した。比喩的に言えば、アパートの廊下は、家の「ウチ」ではなく、家の「ソト」になったのである。

 このような系譜の中で、今日、シェア居住が増えているのは、過去の間借りや設備共用アパートへの逆戻りなのだろうか。それとも、新しい居住形態の登場なのだろうか。

今日のシェア居住の背景

今日のシェア居住の背景について、本特集のミニシンポジウムでは様々な角度から切り込んでいる。その中で注目したいことは、入居時は家賃が安いことが主な理由だが、実際に住んだ後では、「人間どうしの触れ合いの良さ」を評価している点だ。今日、隣人の顔さえ知らないことが多いという都市の単身居住において、集まって住むことの安心感や、互いに触れ合うことの良さを評価しているのだ。このことは、未婚者が増えている若年世代、あるいは単身化が進む高齢世代にとって重要な意味をもつだろう。

 もう一つの注目点は、ルームメイトを募集する手段としてのインターネットの発達だ。これがシェア居住増加の背景にあることは間違いがない。

さらに、新築ではなく既存住宅を利用したシェア居住が多数を占めることも注目される。住宅が余る時代にあって、シェア居住はストックを有効利用し、かつ地域の人口増にも寄与する。筆者らによる「団地シェア居住」の実践は、これらの意義が集約された事例である。

 以上の背景をみると、かつての間借りや木賃アパートとは、都市の単身者がおかれている状況、その住意識が相当異なる。過去への逆戻りではなく、新しい居住形態の一つとして理解することが妥当と思われる。

シェア居住と日本の住空間

 ところで、シェア居住の多くは、普通の家が対象だ。つまり、特別の住宅設計があるわけではない。しかし、その普通の家が、昔とずいぶん変わってきたことに留意する必要がある。

欧米でシェア居住が早くから定着した理由の一つとして、住宅の空間構成の違いがあるといわれる。欧米では、靴をはいたまま家の中に入る。このため、個室から一歩出ると、そこは「ソト」という意識が強いという。加えて、個室に鍵があることが普通で、またシャワーを複数もつ家も少なくない。つまり、一般住宅自体がシェア居住に向いている。

これに対して、日本の伝統的な住まいは個室の独立性が低い。その中で、一時は「間借り」というシェアが進んだが、プライバーのなさから次第に消滅していく。ところが、最近の日本住宅をみると、襖からドアに変わるなど個室の独立性が高まっている。これならば、プライバシーを互いに尊重しつつ、シェア居住ができそうだ。このような空間の変化が、今日のシェア居住普及の一つの背景にあるものと思われる。

とはいえ、ルームシェアの経験者の報告によれば、欧州でも一つの部屋をシェアする場合が少なくないようだ。上記のことはあくまで推測であり、この分野の本格的な国際比較研究の発展を期待しよう。

シェア居住専用の住宅 −ミングルとシェアードハウス−

 一方、普通の家ではなく、シェア居住専用の住宅もみられる。

 このタイプの典型は、関西で一時流行ったミングル・マンションである。2室ないし3室が、台所と風呂を共用する住まいである。「ミングル」は、混ぜるという意味で、アメリカでは単身者(主に男女)が出会うパーティ等を指して使われることがある。それに由来するとの説もあるが、おそらく、シングルに対する語感から都合がよいとして業者が使った造語であろう。

関西のミングルは、もっぱら入居者は家賃を安く、地主は建物の利用効率を高く、という目的に徹して共用部分は大変狭い。それでも、家賃の安さから関西で流行したが、近年はワンルームマンションの家賃低下が著しく、ミングルの家賃の安さが中途半端だとして人気を失いつつあるという。一方、東京にもミングル・マンションが進出しており、こちらはワンルームの家賃が高いため今日でも需要は健在のようだ。

これに対して、食堂などの共用部分を豊かにし、共に暮らすメリットや楽しさを追求したシェア住宅も登場している。例えば、筆者の研究室による本郷シェアードハウスの計画はその典型である。さらに、ミニシンポジウムで紹介する芸術家向けに場所や道具をシェアする西谷荘、地域に開かれた集いの場をもつ松蔭コモンズも、このような事例といえる。

 さらに、コレクティブハウスのように、各戸内に台所等を完備した上で、さらに共用の食堂をもつ住まいも登場している。家賃はその分高くなるが、共に暮らすことの良さを求めた究極の住まいといえよう。

シェア居住の見取り図

以上のようにシェア居住の形態は多様だ。それを理解するために、シェア居住の見取り図を描いてみよう。まず、シェア居住を分類する視点として以下の3つを提示したい。

1        専用設備:各室内に台所・便所・風呂等の設備が整っているか、それとも共用か。

2        共用空間:共に暮らす良さを生かすための共用空間を重視しているか否か。

3        契約形態:各単身者が個別に大家と契約するか、それとも、まとめて一世帯として契約するか。

以上の1と2を軸にとって描いたものが図2である。この図をみると、左下に位置づくワンルームマンション等の一般住宅を基点として、今日のシェア居住は、二つの方向への要求を背景にしていることが分かる。一つは、「?安い家賃を求める要求」、もう一つは「?共生を求める要求」である。そして、ルームシェア等は、この両者の要求が重なったゾーンに位置する。今日のシェア居住の発展を支えている構図が理解できる。

一方、3に示した契約形態については、関連する不動産業の発展に関わる。というのは、もし同居人の一斉入居・一斉退去ではなく、各個室を個別に貸し出すならば、その家の経営者が別途必要になるからだ。具体的には、既存住宅を一括して借上げ、シェア用に個室単位に貸出すサブリース業者である。事実、一棟を借り上げて、5室前後から数十室をもつ「ゲストハウス」として提供する事業者が発展しつつある。また、団地シェア居住におけるLLP(有限責任事業組合)によるサブリースも注目に値する。今後、どのようなビジネス形態が発達するのかは、注目しておきたいテーマの一つである。

そして、このようなシェア居住の背景にある社会動向としては、?非婚者や高齢単身者の増加、?インターネットの発達、?ファミリー向け住宅ストックの余剰、?海外でのシェア居住経験者の増加、?日本住宅の個室の独立性の高まり、等がある。

以上がシェア居住の見取り図だ。本特集(すまいろん2007年春号)が、これからの都市における単身居住の行方を読み解くためのヒントになれば幸いである。

 

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