HIDEKI'S COLUMN 2006

2006.9.14

雑誌「すまいろん」(2005.10)より

今こそ住宅組合の出番である

 −官から民への時代における中間セクターへの期待− 

 日本では、欧米型の本格的なコープ住宅は未だ成立していない。今日、住宅分野における「官から民へ」の動きの中で、公的な役割を住民が担う新しい仕組みとして、日本における住宅組合の可能性を考えてみたい。

日本では昭和40年代末頃からコーポラティブ住宅が発展してきたが、これは住宅建設のために住民が組合を結成する方式であり、建物の完成後は一般の分譲マンションと同じく区分所有になる。「日本のコーポラティブ住宅は完成したら卒業する」といわれる所以である。しかし、このような住宅組合のあり方は世界的には特殊である。本特集で焦点をあてるコープ住宅とは、欧米で長い歴史をもつ不動産の組合所有に基づく住民主体の住宅経営のことである。

欧米におけるコープ住宅の衰退と再評価

ところで、ヨーロッパで登場したとされるコープ住宅は、協同組合思想を背景として各国に普及したが、今日、世界的な組合運動の衰退の中で曲がり角にある。特に、これまで政府の手厚い補助を受け、中低所得者向けの賃貸住宅として発展してきたヨーロッパやカナダでは、政府による補助打ち切りの中で大きな転機を迎えている。

しかし、その一方で、イギリスやスウェーデン等では、小さな政府を目指して公共賃貸住宅の払い下げが行われているが、住宅組合がその受け皿の一つとなり、住民が主体となって住宅を運営していく動きもみられる。つまり、コープ住宅は、民間住宅に対しては政府による特別扱いを廃止される流れにあるが、一方で、公共住宅に対しては、住民の自助努力を引き出す優れた仕組みとして再評価されている。いわば、公私の中間にあって、時代背景の中でその役割を変えつつ、住民主体の住宅として一定の支持を集めてきた。

官から民への動きの中で期待が高まる

ひるがえって、日本はどうだろうか。住宅分野における「官から民へ」の動きは公団・公社・公庫の改革を通して具体化しており、特に、公団住宅(UR賃貸)については、新規供給は抑制され、既存ストックも払い下げを模索しようとしている。しかし、現実には、古いストックは家賃が安く、居住者が持家として払い下げを受けるメリットは乏しい。かといって、郊外に大量に存在する老朽団地では、都心回帰の動きの中で、公共側が改修または建替え費用を負担してまで経営を続けられる環境にはないといわれる。

このような現状の中で求められるのは、公共団体に代わって、民間が公的役割を担う新しい中間セクターの確立である。なぜ、中間セクターかと言えば、老朽団地の再生にしろ、衰退する中心市街地での住宅供給にしろ、純粋な市場原理では成立しにくいからである。とすれば、そこに何らかの公的補助や低利のファンド、あるいは住民のボランティア活動等が関与することが必要になる。それを受け止めつつ住宅供給を進めるためには、非営利でありながら、かつ公共団体ではない新しいタイプの担い手、つまり中間セクターが望ましい。

その中間セクターとして、最近話題のNPOなども考えられるだろう。しかし、欧米のような慈善団体の歴史に乏しい日本では、寄付金等を基盤とした住宅経営組織を実現することは容易ではない。むしろ、居住者自身が、自らのために投資を行う組織に可能性があるのではないか。なぜならば、その住宅に現に住んでいる人々が、その住宅の価値を最も高く評価しており、建物の改修をはじめとして将来に向けた追加投資を行う動機が強いと考えられるからである。

欠けているのは、その意欲・投資を引き出す仕組みである。持家として払い下げを受ければ、この目的に照らして明快だが、しかし、賃貸住宅に住む住民は、そこまでの資金とリスクを負担したくないと考えるのが普通だろう。その一方で、維持管理やリフォーム程度ならば自己負担で実施してもよいと考える居住者は大勢いる。そこに、住宅組合方式の出番がある。

日本での住宅組合の仕組みとは

公共団地の払い下げを想定して具体的な仕組みを考えてみよう。住宅組合は法人であり、そこに居住者は出資する。出資額は持ち家で払い下げを受ける場合の2割程度としよう。残りの8割程度は、住宅組合法人が金融機関等から融資を受け、その返済は、毎月の家賃から行う。

このようにすれば、居住者主体の管理に移行するだけではなく、自助努力が自らにメリットとして返ってくる。つまり、経営がうまくいけば維持管理費を軽減できたり、あるいは退去時に出資株を売買できたりする。

その一方で、居住者が負う経営リスクは出資金の範囲内に収まる。また、持家のようにローン破産におびえる必要もない。いわば、持家と借家の中間の所有形態であり、自助努力を引き出す持家感覚と、気軽に入退去できる賃貸感覚を両立させる第三の住宅になる。

もちろん、この仕組みが成立する鍵は、住宅組合への融資にある。というのは、居住者が負う経営リスクが減ることは、逆に言えば、融資側のリスクが増すことを意味するからである。この問題に対して朗報がある。国土交通省が、平成17度年より「街中居住ファンド」を創設したことである。これは、中心市街地活性化などの政策目的に合致すれば、住宅経営法人に対して一定額を国が出資する制度である。これが機能すれば、金融機関が抱えるリスクは、居住者による出資と本ファンドによる出資の分だけ減ることになる。恐らく、事業費の5〜6割程度の融資になるだろう。この程度であれば、融資に応じてもよいとする金融機関は存在する。

さらに、出資者を居住者に限る必要はない。郊外団地であれば、都市機構が出資してもよいし、地域活性化の観点から地元企業が少しずつ出資してもよいだろう。そうなれば、住宅組合とコミュニティファンドをミックスしたような仕組みになる。

日本では、大正時代に住宅組合法があった。また、現在、マンションの管理組合活動の経験が積み重ねられている。これらの背景を考えれば、中間セクターとして、住宅組合の可能性が大きいと考えている。

住宅組合の多様な展開

 話は変わるが、実は、我々は欧米のコープ住宅について意外に知らない。本特集にあたって、既往文献を調べてみたが、住宅の所有形態や融資に踏み込んで研究した文献は稀であった。おそらく、建築分野での検討が中心であったために、これらの側面への関心が乏しかったのであろう。

?区分所有に敗北した持家型のコープ住宅

 そこで、コープ住宅について概略調べてみた。その昔、都市の集合住宅は、資産家が所有し賃貸経営を行うものであった。しかし、人口の都市集中による家賃高騰を背景として、居住者自らが住宅を経営しようとする要求が強まった。その初期の一例が、アメリカのホームクラブと呼ばれるもので、各入居者はクラブの株主として出資し、そのクラブが集合住宅を所有した。いわば、自立採算による持家型のコープ住宅である。

しかし、その後、ドイツが発祥とされる「区分所有」(コンドミニアム)が発明される。これは、各住戸の財産としての独立性を確保できる点で優れており、1960年代には世界各国に普及した。これとともに、集合住宅の所有を目的としたコープ住宅への関心は薄れる。いわば、持家型コープは区分所有に敗北するのである。例外は、アメリカとスウェーデンであった。

人種等の多様性を抱えるアメリカでは、コープ住宅が入居者を選別できることが一定の支持を集め、ニューヨークでは、コンドミニアムの倍の戸数のコープ住宅が存在する。もちろん、その背景には金融の整備があることを忘れてはならない。アメリカでは、1950年に住宅組合に対する融資を公的保証の対象とし、さらに1980年代には、出資株の売買に融資を行うことでコープ住宅の中古市場を拡大した。

同様なことは、スウェーデンにもいえる。筆者が調べた範囲では、スウェーデンには、区分所有法がない。この国では、コープ住宅を持家と同等に売買できる(値上がり益を得られる)ように金融を発達させたことで、事実上、コンドミニアムを不要にしている。しかし、興味深いことに、建物の維持管理では組合所有の良さを残している。つまり、全国組織から管理支援者が派遣され、さらに組合の意思決定も迅速である。この点は、特別多数決や全員一致を求めるコンドミニアムより、集団としての意思決定が円滑といえるだろう。

?組合運動の延長として借家型コープ住宅

 もう一つの流れが、協同組合思想を背景とした借家型コープ住宅である。最初に登場した経緯は持家型コープ住宅と同様だが、こちらは、労働組合や生活協同組合の住宅版という性格をもち、事実上、公的な賃貸住宅として位置づけられた国が多い。ドイツが最大の供給国で、アメリカでも資産性を制限した低中所得者向けのコープ住宅はこのタイプである。

住宅組合が建物を所有する点は持家型コープ住宅と同じだが、公有地が提供されたり、政府による低利融資が行われたりし、その代わりに配当制限や売買時のキャピタルゲインは制限される。つまり、借家に近い性格をもつ。興味深いことに、このタイプを発達させた国々では公共賃貸住宅の直接供給は少ない。非営利の住宅会社や慈善団体などの中間セクターが多様に存在し、その一タイプとして住宅組合が位置づけられている。

 逆に言えば、公共住宅の直接供給を発達させた国では、コープ住宅は発達していない。その典型がイギリスで、協同組合運動の発祥の地でありながら、戦後になるとコープ住宅は途絶える。しかし、イギリスでも、保守党のサッチャー政権以後、公共賃貸の払い下げが幅広く行われる中で中間セクターの重要性が増し、その一つとして住宅組合が再登場している。

日本での可能性

以上の歴史から、本格的なコープ住宅が日本で定着しなかった理由も想像できる。もともと石造りの集合住宅が新しいという根本理由はあるが、加えて、戦後は公共賃貸の大量供給の中で、中間セクターとしての借家型コープ住宅の必要性がなかった。さらに、集合住宅が一般市民に認知される昭和30年代後半には、区分所有マンションが先に成立しており、持家型コープ住宅の必要性も乏しかった。

しかし、今日、官から民への動きの中で、中間セクターへの期待が高まり、さらに前述した街中居住ファンドの創設にみるように金融制度も整ってきた。加えて、会社法の改正により合同会社が創設され、これは住宅組合の法人形態として使える。

郊外団地の再生、中心市街地での住宅供給、あるいはオフィスの住宅へのコンバージョンなど、住宅組合方式が活躍できる場は多い。あらゆる社会条件が、「今こそ住宅組合の出番だ」といっているように筆者には思えるのである。

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